当館「玉椿」は五島列島の中でも一番大きな福江島に位置します。玉椿とはかわいらしい椿の総称です。
五島列島は「東の大島」「西の五島」と言われるほど椿の自生林が多く、特に椿油は国内で1位、2位を争うほどの生産量を誇ります。
飛鳥時代、遣唐使たちが大陸に向かう際に、「ほとぎ」と言われる陶器の入れ物に椿油を入れ、唐に献上しました。
江戸の頃には椿油で揚げた天ぷらは「金プラ」と呼ばれ、殿がお召しあがりになったとか。
五島では椿の実を「かたし」と呼び、年貢としても収めるほど、当時、椿は大切に扱われ、島の暮らしには欠かせない貴重な財でした。
椿からとれる実は油として灯用、食用、髪油として使用され、島の暮らしには欠かせない自然の恵みでした。
時代が変わった今も、大切に島の営みとして引き継がれています。畑の周りに植えられた椿は防風林として活躍し、炭に使用された時期もありました。
椿は常緑です。枯れないその木は、永遠の命をつなぐ象徴とされ、キリシタン達の歴史に数多く登場します。
五島の教会内装には椿があしらわれ、祈りの家でも大切に扱われてきました。
一年中、椿の葉はきらきらと輝きを放ち、夏には実をつけ、秋に収穫されます。9月の口開けの時期が過ぎると、島のあちらこちらで椿の実を乾燥させています。
乾燥された椿実は島の製油所で絞られ、家庭用として使われ、市場に新鮮な椿油が出回ります。
食用として、美容として使用され大活躍の椿。ただ、椿油も時代の波には逆らえず、昭和30年あたりにサラダ油の台頭と共にその生産量は減り、守るべき貴重な高級油へと変貌を続け今に至ります。
椿花のベストシーズンは冬です。赤、白、ピンク、八重、侘助など、個性豊かなヤブ椿の花が咲き乱れ、11月から4月頃まで島を彩ります。
東洋の薔薇と言わしめるほど自らの美しさを主張することなく、ただただ控えめに咲き抜き、最後まで自分の美しさに気づかぬまま、ぽとりと命果てるまで、役目を終える椿の花の精神世界に魅了されます。
島には奇跡のヤブ椿と言われる「玉ノ浦」椿が存在します。世界中の椿愛好家が愛してやまない幻の椿。
昭和20年頃、椿の木で炭焼きが盛んで、父ケ岳中腹で炭焼き職人により発見されました。
その美しさから、人々は次から次へと、一枝、また一枝と持ち帰りました。その結果、原木はとうとう枯れてしまったのです。近年、園芸種でお目にかかる「玉之浦」椿はその子孫たちです。どうか、鬼岳のふもとにある国際ツバキ優秀庭園にお越しください。圧巻の玉之浦百本が皆様をお迎えします。